飛行機

飛行機に乗っている。
20:49。
窓際の席。
遥か下にオレンジに輝くどこかの町が広がっている。

これは帰りの飛行機だけれど、実は乗るのは初めて。
初っ端から寝坊してぎりぎりのところで次の便に振り替えてもらえた。
他の人に付いていく予定だったので、なんの知識もなく初めて乗った飛行機。
焦った。
なにやら電車のように行ったらすぐ乗れるものではないらしい。
なにやら色々と受付がある。
受付のお姉さん相手にごねる。
なんとかチケットを得る。

寝坊するくらいには疲れていたので、何やら浮いた感覚がするー……と思った3秒後には寝ていた。
窓際でもなかったし。
初飛行機はそんな感じ。 

福岡に着いて、今東京に向かう便に乗っている。
夜だ。
少し曇っていて、大きな街のあたりは空がほんのり明るい。
地球は丸いんだと感じる。
大地は広い。空はさらに広い。
オレンジ色の光が道に沿って続いているのがわかる。
地上絵みたいだ。
山やら海やらはぽっかりと光がなくてそれも不思議だ。
今まであそこにいた。


あの、遠い光があるところに、人間がいる。
見えないけれど、ひとつひとつの明かりの下にその数だけ人間がいて、人生がある。

うーん、えもい。
元々ホテルとか大きなマンションとかビルに灯りが灯っているのを外から眺めるのがすきだ。
あの明かりの中に人がいる。
灯っていないところには多分いない。
オレンジの明かりの部屋もあれば青白いところもある。
たまに人間の影が見えたりする。
顔は見えない。
人間かどうかもわからない。
あの綺麗に並べられた箱の中全てに知らない時間が流れている。 
消して触れ合うことはないけど、色んな人の人生を、時の流れを、並べて一気に見ている気分。
若い人間が音楽と明るい照明の下、たくさんの人々と一瞬の瞬きのうちに終わってしまうようなきらびやかな時間を過ごしていたりするんだろう。
人生の夕暮れ時に日が沈むのを眺めているような、そんな時間を過ごしている人もいるんだろう。
四角の枠に切り取られた無数の時間を思うと、自分のもとにあった意識がふっと手放されるような気持ちになる。
そこに自分の時間の流れはない。

それの、さらにスケールがでかいバージョンだ。
飛行機というのは。 

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また逸らす。
小さい頃は空を眺めるのが好きだった。
登校や下校の間はよく遠くの空を眺めていた。
わたしはちっぽけで、空は広く遠かった。 
田舎だった。
飛行機がよく通った。 
視界に入ると、それが消えるまで目で追い、見守った。
きっとあそこには違う時間が流れている。 
そして世界はなにやら消えた飛行機の向こうまで広がっていて、もっと大きいらしかった。
時間とともに雲の形と位置が変わった。
また飛行機がくる。 

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飛行機に乗るのは初めてだが、飛行機というのはとても思い出深い。
小学生の頃、アメリカに住んでいた3つ下の従兄弟とおばさんが毎年夏休みに遊びに来た。
その時期になると車で2時間かけて空港まで迎えに行く。 
田舎から田舎への移動だった。
空港というところは大きくて、周りの何もなさから世界が一転する。 
それだけで夢のようだ。
一年ぶりの従兄弟を待つ。 
そしてひと夏を共に過ごし、その記憶を抱えながらまた一年会えない従兄弟を見送る。 
あっけない。
夢を見ていたのかもしれない。 
車で田舎へ帰る。
都心から遠のくたび民家の灯りがぽつぽつ消えていって、やがて規則的に並ぶ道沿いの電灯だけになる。
左右に均等に並ぶ光の間を抜ける。 
車のヘッドライトが照らすより先の前方は見えない。
しばらくするとまたぽつぽつ灯りが増えて現実である地元の町が見えてくる。
やっぱり夢を見ていたんじゃないかと思う。
遥か頭上に小さく光りながらゆっくり移動する飛行機を見つける。
過ぎてしまった時間を思う。
全ては過ぎて、変わっていく。
飛行機が視界から消える。

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大きいもの、は、無条件にいいと思う。 
大きいほどいい。
広ければ広いほどいい。
高いものは突き抜けて素晴らしい。
それだけで尊い。 
でかいのの何がいいかって、自分の小ささがこんなにもわかるからだ。
ただそこにいるだけで、こーーんな大きな世界の、自分なんてこーーーーーんだけなんだと、わかる。
世界の大きさを思うとき、その意識は自分にない。
わたしの意識はひろーーい宇宙のどこかに飛んでいく。
意識は自分のものではなくて、個が消えて、大きなひとつの何かの一部になる。
自分を手放す。
魂がわたしを離れて全てを外から見つめている気持ちになる。
無意識に呼吸が深くなる。
流れていった無数の時間を思う。 


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その感覚がすきであんなにそらを眺めていたんだなと今思う。 
田舎の広い空に抱かれながら生きてきた。
大きいものを見たとき、自分以外の無数の時の流れを感じたとき、自分の小ささを感じたとき、わたしはわたしを手放すことができる。

飛行機は、すごい。 
戻るけど。
世界は広く、でかい。
さっきいた街からどんどん遠ざかるのがわかる。
遥かに大きいこの世界は自分ではどうにもならないんだなと思う。
それは素敵な諦めで、何かからすこし解放された気になる。


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着陸準備のため機内の灯りが落とされた。
外がよく見えるようになる。 
ぽっかり黒く穴の空いたここがきっと海で、先に見えるあれは海岸線。
横には地平線も見える。
あの向こうにも世界が広がっている。
真下にある暗い中光る灯りはこんなにも綺麗だ。
地上が近づいてきた。
わたしもこの灯りの中のひとつになる。
また意識がわたしのもとに戻ってくる。

さよなら
おかえりー





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ナ・バ・テア

ナ・バ・テア

空を思うと思い出す。
キルドレになって空で死にたかったなあ。






現世に生きてると自分のちっぽけさ忘れがちよねという話

22:34
そしてキャリーバック引き取るの忘れてうっかりターミナル出るところだった
戻ってきて意識